近年糖尿病の患者様が急増し、大きな社会問題と成っています。原因は肥満と運動不足ですが、高カロリー、高脂肪な食習慣がその根元と考えられています。残念ながら茨城県は糖尿病による急性心筋梗塞や心臓死が全国でもトップクラスで、県でも本格的に循環器疾患の撲滅に取り組んでいます。
成人に一般的にみられる2型糖尿病には2つのタイプがあり、一つは空腹時にも血糖が高い重症の空腹時高血糖型です。これは欧米人に多く、空腹時血糖が126mg/dl以上を呈し、糖負荷試験を行うと空腹時と負荷時に血糖が高くなります。もう一つは日本人に多い軽症の食後高血糖型で、日本の糖尿病の70%はこのタイプです。欧米人とは異なり日本人では肝臓での糖吸収が不良で、インスリンの追加分泌も少ないため食後の高血糖が生じやすいと考えられています。
糖尿病治療の目的は血糖をコントロールして合併症である血管障害を防ぐ事ですが、血管障害には2つのタイプがあります。一つは三大合併症として知られる網膜症・腎症・神経障害で、放置しておくと失明や透析に繋がります。これらはとても細い血管が障害されて生じることより細小血管症と言われています。
もう一つは脳や心臓や足などの太い血管の動脈硬化で、境界型や食後高血糖型などの軽症糖尿病でも生じ、大血管症と言われています。境界型でも糖尿病と同程度に心筋梗塞の危険率が高まることが分かっており、食後高血糖型の糖尿病では狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などの発症を予防する事が大切です。
肥満や運動不足により肝臓や筋肉に脂肪が蓄積するとインスリンが効き難くなり(インスリン抵抗性と言います)、肝臓や筋肉での糖の吸収が抑制され食後の血糖が上昇します。その結果インスリンが遅れて過剰に分泌されますが、この過剰に分泌されたインスリンと食後の高血糖が直接・間接に血管を障害し、動脈硬化を促進します。
また糖尿病には高血圧症や脂質異常症を合併することが多く、これらを併発すると更に動脈硬化が進行します。このため厳格な血圧・脂質のコントロールが必要とされており、血圧は130/80mmHg未満、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は120mg/dl未満に下げることが推奨されています。
治療としてはまず生活習慣の改善で、炭水化物や脂肪の摂取を減らし、標準体重(BMI22)を維持してください。10分で良いから毎日運動しましょう。喫煙により心臓病は3倍に増えますので、必ず禁煙してください。
薬物療法としては、優れた血糖低下作用に加え、体重減少作用を有するGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬が、心血管イベントを抑制する上でも有用と考えられて来ています。GLP-1受容体作動薬では、SUSTAIN6研究で週1回注射のセマグルチド(オゼンピック)が、2型糖尿病患者で心血管イベント発症リスクを低下させることが示されています。また経口セマグルチド(リベルサス)でも、PIO-NEER6研究で心血管イベント発症リスクの抑制効果が示唆されています。SGLT2阻害薬では、DAPA-HF研究でダパグリフロジン(フォシーガ)が、糖尿病の有無に関わらず心不全増悪リスクを低下させることが証明されています。またエンパグリフロジン(ジャディアンス)も、EMPEROR-Reduced研究で同様の効果を有することが報告されています。更にダパグリフロジンは慢性腎臓病でも有用性が示されています。
インスリン抵抗性を改善するビグアナイド薬(メトホルミン等)や食後高血糖を改善するαーグルコシダーゼ阻害薬(ミグリトール等)と、最新のGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬を組み合わせることで、心血管イベントの抑制を図りたいと考えています。
糖尿病では症状が無くても心臓病が進行している場合が少なく無いので、定期的に心電図検査等を受けて、冠動脈疾患の早期発見・早期治療を心掛けてください。